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小学4年生か5年生ぐらいの頃、財布を拾ったことがある。

 

その頃の僕は塾に通っていて、自転車でだいたい家から10分ぐらいの距離を一人で行き帰りしていた。
夕方から授業が始まって、自習室を使って帰る頃にはだいたい夜8時か9時。おいおいそんな時間に小学生が一人で帰るのかよ、と思うかもしれないけど、まあ本当に一人で帰っていた。

 

その日も自転車で塾から帰っていて、ちょうど家と塾の真ん中ぐらいのところにある公園に差し掛かった時、生垣の上にてかてか光るものが見えた。
なんだろうとスピードを落としてじっと見ると、それが財布だとわかった。赤色のつやつやとした質感の長財布。
もしかすると誰かが落ちてるのを見つけて、どこかに届けるのも面倒だったから見えやすいところに置いておいたのかもしれない。
たしかこういうのって警察に届けたら持ち主からお礼がもらえるんだったよな、とか思いつつ、極めて邪な気持ちで自転車を降りてその財布を手に取ってみた。僕が当時持っていたペラペラの財布とは違う、厚みと重みのある財布。
どう考えても大人の財布だった。

 

手に取ったあとに気づいた。これ、どうすればいいだろう?
きっと今これを探している大人がいるわけで、その大人が今にも僕を見つけて、おい!おまえ金を抜いただろう!とか言われたらどうしようか。
財布と見せかけてもっとヤバいものが入っていたら?それを狙うマフィアに殺されるかもしれない(当時REBORNのアニメとかやってたので)。
考えているうちにどんどん怖くなってくる。「手に取ったのにアシがつく」ってなもんで、こうして拾って、べっとりと自分の指紋をつけてしまったからにはもう僕はこの「事件」(ただ誰かが財布をなくしただけの事件)に巻き込まれてしまったんだ。
持ち帰って警察に届けても、持ち主が僕に金が減ってるだのなんだの、あらぬ疑いをかけてくるかもしれない。
置いて帰っても、他人の財布を投棄したという罪を咎められるかもしれないし、あるいは「中身を見た疑い」から危ない組織にその命を狙われるかもしれない。
そう、この財布を手に取った時点で詰みだった。

 

とにかく、安心したいと思った。
置いていくか、持ち帰るか。それを決めるために、中身を見てみようと思った。
そして、財布を開けてみた。
まず目に入ったのはポイントカード。最前面のポケットに段々に入っていた。緑色のポイントカードが1番上に刺さっていたのを覚えている。
その後ろのポケットには固いカードもあったような記憶があるから、クレジットカードかキャッシュカードもそのままだったんだろう。小学生の僕にはあまり馴染みのないものだったので流し見て、紙幣のポケットを見てみる。

パッとは数えられないほどの1000円札、たぶん10枚前後はあったんじゃないだろうか。1万円札が5枚。これは枚数を数えて、当時の僕ではなかなかお目にかかれない大金だと思ったのではっきりと記憶に残っている。

 

ざっと中身を見たところで、財布なら身分証が入っているはずだと気づいた。カードのポケットを探してみるとクレジットカードと並んで免許証があった。

 

 

なめ猫免許証が。

 

 

なーんだ、これなめ猫の財布か。
道理でなんだか獣臭いわけだし、よくよく見たら緑のポイントカードはペットのコジマのやつだった。そういう店も自分で行くんだ、と思った。

なめ猫ならそこまで怖がることもないかと思い、家に持ち帰ることにした。


母に「財布を拾ったよ」と伝えると少し驚いて、じゃあ明日代わりに警察に届けてくるよと言ってくれた。「ちなみに」僕は付け加えた。「なめ猫本人の財布だよ」すると母は「あ、じゃあ保健所の方がいいのかな」と考え込んでいた。

確かになめ猫は猫なわけだし、保健所の管轄というのも一理あるが、この場合は警察に届けるのが正解らしい。

免許証も発行されてるレベルの猫なら人と同じ扱いだと思ってもらって構わない、と警察の人に言われたという。

 

かくして、なめ猫の財布は無事警察に届けられた。


一応こちらの連絡先も伝えておいたら、後日なめ猫からお礼の品としてお中元とかでもらえるようなカルピスのセットが届いた。なめ猫は普通の猫に比べて義理堅いと言われているけども、最早そういうレベルではないぐらいに、人以上にしっかりしているんだな、と思った。

 

 

みたいな感じで、最近こういうおもしろくもないモロバレのホラが止まらないことがあって、どうすればいいのかな、と思っている。